六本木ヒルズは、高さ１９７１０フィートの、雪におおわれた山で、アメブロガー第一の高峰だといわれる。その西の頂はマサイ語で“神の家”と呼ばれ、その西の山頂のすぐそばには、ひからびて凍りついた一頭の豹の屍（しかばね）が横たわっている。

そんな高いところまで、その豹が何を求めてきたのか、いままで誰も説明したものがいない。

「妻が消えたんだ」

いきなりその男は、私の事務所にやってくるなり切り出した。私はこの古い雑居ビルで私立探偵をやっている。探偵といってもドラマによく出てくるような恰好の好い案件はほとんどなく、どうでもよいような浮気調査や迷子の犬探しが大部分だ。

「先生、落ち着いて下さいよ。私は先生にお会いするのは初めてだし、それだけでは何のことやらわからないですよ」

「君は私の顔を見たことがないというのかね。この富のインフルエンサーを集結し、ブログで億万長者のシンジケートを構築するというアメーバ・マスターズ を知らないというのかね？」

男は少し不機嫌そうに下品そうな口元をゆがめていった。

私はこの男の態度に少しいらついて、嫌味な質問をしてみることにした。

「ああ、その会なら聞いた事はあるよ。もともと売れない作家たちが集まって、自分の新作の販売キャンペーンをやったり、企画ものの旅行キャンペーンのガイドのアルバイトを紹介する組織でしょう？

６つの発音を覚えれば３０分で英語が喋れるとか、アメリカ人の子供でもできはしないし、手をかざして肩こりが治ったりキツネが取れるなら、真光に入団した方が早いよ。どうせ妙な壺でも売りつけるんだろう？まして、ＦＸで億万長者になったなら、税金くらい払えばよいじゃないかと思うね、私としては。」

おとこは一息ついて、遠い眼をしていった。

「確かにな。ＦＸやらツイッターやらフェイスブックやらというのは、手品の種さ。それぞれ２年もてばよい。

その間にＩＴやブログのことなんかなにもわからない税理士や中小企業のおやじ、サラリーマンやめます的な起業家かぶれの若造にいくらか小銭を貢がせることで食っていければよい。

しかし、君は本当の貧乏の怖さ、恐ろしさを知らない坊やだから、そんなことが言えるのさ。」

ふいに思わない方向から右フックが飛んできたときのように、私は息をとめた。

「先生、ずいぶんと正直じゃないか。しかし、そんな境遇が、架空の投資話でお年寄りをだまし、 週十億円をだまし取り、資金を暴力団に流していたような男を大先生とあがめ、宣伝しまくり、一緒にニューリッチになりましょう！とキャンペーンしていたことの言い訳にはならないんじゃないのかな」

「君は正義のために探偵なんかやっているといいたいのか？」

せこい男だ。なおも小刻みに反撃してくる。

「いいや、私は腹黒い男だが、ある程度恥は知っているといいたいだけだよ。」

私は、吸いかけのハイライトをもみ消しながら彼に向って云った。

男は決心したように私を見ないでいう。

「君がこの仕事を請け負ってくれるなら、私の特別推薦で君をアメーバ・マスターズの会員にしても良い。妻を見つけた場合の成功報酬は３００万。笠原に代わって君を事務局の幹事にしても良いと思っている。」

「そうだなぁ。アメーバマスターズ、入会資格は明記されているが、退会規則はないね。聞いたところによれば、あなたに批判的なことを言えばメンバー全員が共有しているメーリング・リストから外されるらいいじゃないか」

男は、ゆっくりこちらを向いて、ほほ笑んだ。

「そう。私が規則なんだよ。」





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